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熊本地方裁判所 昭和49年(ワ)495号 判決

原告

金崎喜久蔵こと金泳祚

ほか五名

被告

有限会社家具の大川商事

ほか一名

主文

一  被告等は、各自、原告金泳祚に対し金一七九万二二〇五円、原告金誠一、同金敏子、同金栄子、同金胎順に対し各金五七万〇〇六八円、原告金玉順に対し金三九万五〇六八円および右各金員に対する昭和四八年九月二八日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告等の、被告等に対するその余の請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その八を原告等(ただし、原告等間では平等負担。)の、その二を被告等(ただし、被告等間では平等負担。)の、各負担とする。

四  この判決は、原告等勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告等

1  被告等は、各自、原告金泳祚に対し、金八八〇万〇〇五三円、原告金誠一、同金敏子、同金栄子、同胎順、同金玉順に対し、各金二八三万〇七〇〇円および右各金員に対し昭和四八年九月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告等の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告等

1  原告等の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告等の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告等の請求原因

1  本件事故

(一) 発生日時 昭和四八年九月一五日午後八時五分頃。

(二) 発生場所 熊本市草葉町一番四〇号先交通整理の行われていない交差点。

(三) 加害(被告)車 被告龍野秀典(以下単に被告秀典という。なお、被告有限会社家具の大川商事を単に被告会社という。)運転にかかる普通乗用自動車。

(四) 被害(原告)車および被害者 原告金玉順運転にかかる軽四輪乗用自動車。右車両助手席に同乗していた訴外金崎奈美子こと季貴仙。

(五) 事故の態様 本件加害車が、本件交差点を、熊本市白川公園方面から同市上通町方面に向け直進通過しようとしたところ、偶々、本件被害車が、右加害車の右方道路(同市南坪井町方面から同市水道町方面へ通じている。)から進行して来て右交差点を通過しようとしたため、右両車両が、右交差点のほぼ中央附近で出会い頭衝突した。

(六) 被害の状況 右季貴仙は、本件事故により、頭部外傷、頸部捻挫の傷害を受け、右受傷に基づき本件事故当日から一三日目の同年同月二七日死亡した。

2  責任原因

(一) 被告会社

右被告は、本件事故当時、本件加害車をその運行の用に供していた。

(二) 被告秀典

右被告は、前方注視と安全運転の注意義務に違反して本件事故を惹起した。

3  本件損害

(一) 亡季貴仙分

逸失利益金 金一七四八万〇二六〇円

(1) 右季貴仙は、本件事故当時、非鉄金属、製鋼原料、一般鋼材、製紙原料問屋金崎商店の代表者であり、自ら営業全般、特に資金繰り、銀行取引業務を全て担当していたが、そのかたわら主婦として家事一切の切り盛りもしていた。

(2) 右李貴仙の本件事故前一年間の所得金額は金二八六万三七一〇円であつた。しかして、同人は、右金崎商店の営業主であると共に被扶養者があつたので同人の生活費は右純所得金額の三五パーセントに相当する。そこで、右純所得金額から右生活費相当金一〇〇万二二九九円を差引くとその残りの金額は、金一八六万一四一一円である。右金一八六万一四一一円が同人固有の純所得である。

(3) 右李貴仙は、本件事故当時、五〇歳であつたから、その就労可能年数は六七歳までの一七年間である。

(4) 右各事実を基礎として、右李貴仙の本件逸失利益の現価額を、年別複式ホフマン式計算法により所定の中間利息を控除して算出すると、その金額は金二二四八万〇二六〇円となる。

(5) しかして、右李貴仙に対し、本件事故後自賠責保険金五〇〇万円が支払われたので、右金五〇〇万円を本件損害の填補として右金二二四八万〇二六〇円から控除する。右控除後の金額は、金一七四八万〇二六〇円であり、右金額が、右李貴仙の本件逸失利益である。

(二) 相続関係

(1) 原告金泳祚は、右李貴仙の夫であり、その余の原告等五名は、右李貴仙の子等である。

(2) 原告等は、右李貴仙の相続人として、右李貴仙の本件逸失利益賠償請求権を、その法定相続分にしたがい、原告金泳祚においてその三分の一宛、その余の原告等においてその各一五分の二宛相続した。右相続した金額は、次のとおり。

(イ) 原告金泳祚 金五八二万六七五三円。

(ロ) その余の原告等 各金二三三万〇七〇〇円。

(三) 原告金泳祚分

(1) 前記李貴仙の治療関係費 金一一万一一〇〇円

(イ) 右李貴仙は本件事故当日から死亡するまでの間熊本市草葉町所在西郷病院において治療を受けたところ、右病院の治療費金一〇万七八〇〇円は、右原告において支払つた。

(ロ) 右李貴仙は本件事故後の昭和四八年九月一七日から同月二七日までの一一日間右病院へ入院したところ、その間の入院雑費は一日当り金三〇〇円であり右入院雑費の合計金三三〇〇円は、右原告において支払つた。

(ハ) 右(イ)、(ロ)の合計額は、金一一万一一〇〇円となる。

(2) 右李貴仙の葬儀費 金二三万円

右原告は、右李貴仙の葬儀費として金二三万円を支出した。

(3) 右李貴仙の仏壇、仏具新調費

金一五万七二〇〇円

右原告は、右李貴仙の死亡に伴い仏壇、仏具を新調し、その費用合計金一五万七二〇〇円を支出した。

(4) 代替従業員雇用費 金四七万五〇〇〇円

右原告は、右李貴仙の死亡により、前記金崎商店の代替緊急要員として、営業係事務員訴外本田延子、炊事雑役係訴外大村イシの両名を雇用し、昭和四八年一一月から同四九年七月までの給与として合計金四七万五〇〇〇円を支払つた。

(5) 右原告固有の慰藉料 金二〇〇万円

右原告は、本件事故により、その妻右李貴仙の生命を奪われた。よつて、本件慰藉料は金二〇〇万円が相当である。

(6) よつて、右原告が、被告等に請求する本件損害賠償額は、前記相続分金五八二万六七五三円と右(1)ないし(5)の合計額金二九七万三三〇〇円との総計金八八〇万〇〇五三円となる。

(四) その余の原告等分

(1) 前記李貴仙からの相続分

各金二三三万〇七〇〇円

(2) 右原告等固有の慰藉料 各金五〇万円

右原告等は、前記のとおり前記李貴仙の子等であり、母である右李貴仙の生命を本件事故により奪われた。そこで、右原告等の本件慰藉料は各金五〇万円が相当である。

(3) よつて、右原告等が被告等に請求する本件損害賠償額は、右相続分各金二三三万〇七〇〇円と右慰藉料各金五〇万円の合計額各金二八三万〇七〇〇円となる。

4  よつて、原告等は、本訴により、被告等に対し、各自次の金員を支払うべく求める。

(一) 原告金泳祚に対し本件損害合計金八八〇万〇〇五三円。

(二) その余の原告等に対し本件損害合計各金二八三万〇七〇〇円。

(三) 右(一)、(二)の各金員に対する本件事故後で前記李貴仙が死亡した日の翌日である昭和四八年九月二八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による各遅延損害金

二  請求原因に対する被告等の答弁および抗弁

1  答弁

請求原因1、(一)ないし(五)の事実は認める。同(六)の事実中訴外李貴仙が昭和四八年九月二七日死亡した点は認めるが、本件受傷の部位の点は不知。右李貴仙の死亡と本件事故との間の因果関係の存在は否認。右李貴仙の死亡は脳溢血によるものであり、右脳溢血は本件事故と因果関係のないものである。同2、(一)の事実は認めるが、同(二)の事実は否認。同3(一)(3)の内前記李貴仙が本件事故当時五〇歳であつた点同3(一)(5)の内右李貴仙に対し本件事故後自賠責保険金五〇〇万円が支払われた点を認め、その余の同3(一)の事実は全て不知。同3(二)(1)の事実は認めるが、その余の同3(二)の事実は全て争う。同3(三)(1)(イ)の内右李貴仙が西郷病院で治療を受けた点は認めるが、その余の(三)(1)の事実は全て争う。特に、右李貴仙の西郷病院における治療費は全て被告等において支払済である。同3(三)(2)ないし(4)の事実は全て不知。同(5)の内右李貴仙が原告金泳祚の妻であつた点は認めるが、その余の同(5)の事実および主張は争う。同3(三)(6)の主張は争う。同3(四)(1)の主張は争う。同(2)の内原告金泳祚を除く原告等が右李貴仙の子等である点は認めるがその余の同(2)の事実および主張は争う。同3(四)(3)の主張は争う。同4の主張は全て争う。

2  抗弁

(一) 免責

(1) 本件事故現場の交差点は、本件被告車の進行した幅員二・六メートルの道路と本件原告車の進行した幅員二・三メートルの道路が交差する狭い十字路で、左右の見通しがきかない場所である。しかして、本件事故は、右交差点で本件原、被告車が出合い頭に衝突したものである。右原告車を運転していた原告金玉順には右交差点を通過するに当り、左右の安全を十分に確認して進行すべき注意義務があることは勿論加えて右のとおり明らかに幅員の広い交差道路を、しかも左方から進行して来る本件被告車の進行を妨げてはならない義務もあつた。右玉順は、いずれも右義務を怠り、右交差点へ進入するに当り一時停止も徐行もしないまま漫然と進行した過失により、折から右原告車の左方から徐行して進行して来た本件被告車に接触するに至つたものである。本件事故は、右のとおり、右玉順の一方的過失により惹起されたものであつて、被告秀典には右事故に対する過失がない。

(2) 本件被告車には、本件事故当時、構造上の欠陥、または機能上の障害がなかつた。

(二) 過失相殺

仮に、右免責の抗弁が認められず、また、被告秀典に本件事故に対する過失が認められるとしても、本件事故の発生には、右(一)(1)で述べた原告金玉順の過失も寄与しているのであるから、右玉順の右過失は本件損害の算定に当り斟酌されるべきである。

三  抗弁に対する原告等の答弁および被告等の主張に対する反論

1  答弁

(一) 免責の抗弁について

右抗弁事実(1)中本件被告車を原告金玉順が、本件加害車を被告秀典が、各運転していて、本件交差点において右両車両が出会い頭衝突した点は認めるが、その余の右(1)の事実は否認。同(2)の事実は否認。本件事故は、被告秀典の前記過失により惹起されたものである。

(二) 過失相殺の抗弁について

右抗弁事実は否認。

2  反論

前記李貴仙の死亡と本件事故との間には因果関係が存在する。右李貴仙は、本件事故後の昭和四八年九月一七日、頂部痛、頭重感、嘔気等出現により前記西郷病院へ入院したのであるが、かかる症状は、頭部打撲傷による特徴であり、右李貴仙が本件事故により頭部外傷の傷害を受けたからに外ならない。そして、右初診時における血圧検査によれば、右李貴仙の血圧は、最高一五四、最低一〇〇に過ぎず、また同月二二日の脳波検査においても異常は認められていない。かかる点を総合すれば、社会通念上右因果関係の存在は、これを肯認できるのである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一1  本件事故について

(一)  請求原因1(一)ないし(五)の各事実、同(六)の事実中訴外李貴仙が昭和四八年九月二七日死亡した点は当者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第一八、第一九号証の各一、二、同乙第一三号証、証人中村澄三の証言および弁論の全趣旨によれば、右李貴仙は本件事故により頭部外傷、頸部捻挫の傷害を受け右事故当日熊本市若葉町所在西郷病院で手当を受けたところ、本件事故後の昭和四八年九月一七日頂部痛、頭重感、嘔気等の症状が出現したため、右同日から右病院へ入院し右死亡するまで治療を受けていたことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(三)  しかるに、右李貴仙の右死亡と本件事故との間の相当因果関係の存否が本件争点の一つである。よつて、この点について判断する。

(1) 前記甲第一八、第一九号証の各一、二、同乙第一三号証、成立に争いのない甲第六、第七号証、同甲第一七号証、同甲第二〇号証の一、二、同甲第二一号証の一ないし四、証人赤星澄夫、同中村澄三の各証言および弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められる。

(イ) 右李貴仙には両側腎臓が腫張している腎のう腫(先天性)の疾患が、存在した。右疾患は、高血圧症、即ち腎性高血圧症と密接な関連を有し、右疾患を有する者の大半は右高血圧症を併有するものである。右李貴仙もまた右高血圧症を併有していた。右李貴仙は、本件事故前の昭和四八年九月三日、軽いめまいと頭重感を訴え、同日から、同月四日、同月六日、同月七日、同月八日、同月一三日の各日、かねてかかりつけの医師赤星澄夫に往診を依頼し右高血圧症の治療を受けた。右李貴仙の、右期間内における血圧の推移は次のとおりであつた。昭和四八年九月一二日、一八二―九六(最高―最低。以下同じ。)、同月四日、一六〇―八八、同月六日、一六二―八二、同月七日、一六〇―八〇、同月八日、一四〇―八八、同月一三日、一六〇―八二。

(ロ) 右李貴仙は、昭和四八年九月一七日前記症状で前記病院へ入院したが、同月二七日死亡するまでの同人の症状の推移は次のとおりであつた。

(a) 右入院時の血圧は、一五〇―一〇〇であつた。右入院時から二、三日、前記症状が持続したため右症状に対し、対症療法が実施された。

(b) 同月二二日頃には、右症状はかなり改善され歩行および身の回りの処理を自らの手で行えるようになつた。

(c) 同月二三日の脳波検査では異常所見が認められなかつた。

(d) 同月二五日の症状は、頂部痛、および肩こりで、同人において主治医に対し退院の希望を述べる程全身状態は良好になつていた。

(e) 同月二六日午後八時二〇分、突然、頭痛、左手のしびれ感を訴え、顔面紅潮となつた。その時の血圧は二〇〇―一一四であつた。即刻、降圧剤、止血剤の注射が行われたが、八時四五分意識不明となり大きないびきをかくようになつた。その前後を通じる治療の効果はなく血圧は降圧せず、嘔吐、全身のけいれんが頻発した。

(f) 同月二七日午前零時呼吸停止。同日零時三五分死亡。

(ハ) 右李貴仙の主治医であつた右病院の医師訴外中村澄三は、右李貴仙の死亡を腎性高血圧症に起因する脳出血と診断し、右死亡と本件事故との因果関係の存在については、右李貴仙の入院から死亡までの右症状の推移、本件事故と右死亡までの時間的経過等からして、その存在を疑問視しつつも、臨床医としてその存否いずれも確定し得ないとしている。

(2) 鑑定人松角康彦の鑑定結果によれば、医学上の結論として、右李貴仙は、同人の有する前記既往疾患に、本件頭部受傷の影響が加重され、重篤なる頭蓋内圧亢進症状を招き、死亡するに至つたと推論される。

(3) 右認定に反する証人田口春代、同田中褌男の各証言、原告金泳祚、同金玉順各本人尋問の結果は右(1)、(2)掲記の各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(4) 右に認定した各事実を総合し、当裁判所は次のとおり認定する。

前記李貴仙の本件死亡と本件事故との間には、法的に見ても、相当因果関係が存在すると認めるのが相当である。ただ、右死亡は、本件受傷に起因するものとはいえ、右李貴仙の前記既往疾患の存在を前提として結果されたものであるから、かかる場合には、右死亡に対する本件事故による受傷と右疾患の寄与度を勘案し、右相当因果関係は、右疾患の寄与度を控除した限度において存在するものと認めるのが相当である。

2  責任原因について

(一)  被告会社

(1) 請求原因2、(一)の事実、は当事者間に争いがない。

(2) そこで免責の抗弁について判断する。

(イ) 本件事故当時本件被告車を運転していた被告秀典が本件事故に対し無過失であつたとの主張事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

(ロ) かえつて、成立に争いのない乙第二号証、同乙第六ないし第九号証、同乙第一二号証を総合すると、被告秀典は、次なる過失により本件事故を惹起したことが認められる。すなわち、本件交差点は、左右の見通しが全く困難であつたから、右秀典としては一時停止、または徐行して左右道路の交通の安全を確認してから進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、左右の安全を確認しないまま時速約二〇キロメートルで右交差点に進入した過失。

(ハ) しからば、本件免責の抗弁は、右抗弁を構成するその他の事実の存否につき判断を加えるまでもなく、右無過失の主張の点で、既に理由がないというべきである。

(二)  被告秀典

右被告の本件事故に対する過失については、右(一)(2)(ロ)で認定したとおりである。

(三)  右認定に基づけば、被告会社は自賠法第三条に基づき、被告秀典は民法第七〇九条に基づき、しかも、右両者は共同不法行為者として連帯して、原告等の本件損害を賠償する責任があるというべきである。

3  本件損害について

(一)  亡李貴仙分

逸失利益 金一二一万二七一八円

(1) 右李貴仙が本件事故当時五〇歳であつた点、右李貴仙に対し本件事故後自賠責保険金五〇〇万円が支払われた点、原告金泳祚が右李貴仙の夫である点、はいずれも当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第二二ないし第二七号証、証人田口春代の証言、原告金泳祚、同金玉順各本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると次の各事実が認められる。

(イ) 右李貴仙は、本件事故当時、その夫である原告金泳祚と共に、金属商金崎商店を経営し、営業全般、特に資金繰り関係の業務を担当していた。しかして、右商店経営に対する右両者の寄与率は、右李貴仙八〇パーセント、原告金泳祚二〇パーセントであつた。

(ロ) 右金崎商店の昭和四八年一月一日から同年九月二七日までの所得金額は金一二三万六四九〇円であつた。右金額に基づき本件事故当時における右金崎商店の年収を算定すると金一六四万八八〇〇円となる。(一カ月の平均所得は金一三万七四〇〇円)しかして、右金一六四万八八〇〇円の八〇パーセントが右李貴仙個人の所得と認めるのが相当である故、それにしたがえば、右所得は、一三一万九〇四〇円となる。右金一三一万九〇四〇円から原告等の主張するところにしたがい同人の生活費として右所得の三五パーセントに相当する金額金四六万一六六四円を控除すると、その残りは金八五万七三七六円となり、右生活費控除後の金八五万七三七六円が右李貴仙固有の純所得である。

(3) 右認定に反する、成立に争いのない乙第一〇号証は前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(4) 右李貴仙の就労可能年数は六七歳までの一七年間と認めるのが相当である。

(5) 右各事実を基礎として、右李貴仙の本件逸失利益の現価額を、年別複式ホフマン式計算法にしたがい所定の中間利息を控除して算定すると、その金額は金一〇三五万四五三〇円となる(ホフマン式係数一二・〇七七。なお円未満四捨五入。以下同じ。)。

(6)(イ) しかしながら、前記説示のとおり右李貴仙の本件死亡と本件事故との間の相当因果関係の範囲は、右死亡の発生に対する本件事故の寄与度の限度で認められるべきである故、右死亡に基づく本件損害額も、損害額の公平な分担という観点からして、右範囲内で算定するのが相当である。そして、前記認定にかかる各事実を総合すると、右寄与度は六〇パーセントと認め、その範囲内で被告等に右李貴仙の本件損害を賠償する責任を認めるのが相当である。右観点から、右李貴仙の本件逸失利益を算定すると金六二一万二七一八円となる。

(ロ) しかして、右金六二一万二七一八円から、前記当事者間に争いのない自賠責保険金五〇〇万円を原告等の主張するところにしたがい右損害の填補として控除すべきである。なお、被告等においても右五〇〇万円の右充当関係それ自体については格別異議を述べていない。よつて、それ自体については黙示の承諾をしているものと認めるのが相当である。しからば、右控除後の金額は、金一二一万二七一八円となる。

(二)  相続関係

(1) 原告金泳祚が右李貴仙の夫であり、その余の原告等が右李貴仙の子等であること、は当事者間に争いがない。

(2) しからば、原告等は、右李貴仙の相続人として、右李貴仙の本件逸失利益賠償請求権を、その法定相続分にしたがい、原告金泳祚においてその三分の一宛、その余の原告等においてその各一五分の二宛相続したというべきである。右相続した金額は次のとおり。

(イ) 原告金泳祚 金四〇万四二三九円

(ロ) その余の原告等 各金一〇万七七九七円

(三)  原告金泳祚分

(1) 前記李貴仙の治療関係費

(イ) 右李貴仙が本件事故当日から死亡するまでの間前記西郷病院で治療を受けたこと、は前記認定のとおりである。しかして、右原告は、右病院の右治療費合計金一〇万七八〇〇円を支払つた旨主張する。しかしながら、右主張事実はこれを認めるに足りる証拠がない。かえつて、成立に争いのない甲第一一号証によれば、右治療費は被告会社において支払済であることが認められる。よつて、右原告の右治療費の本訴請求部分は理由がない。

(ロ) 入院雑費 金三〇〇〇円

右李貴仙が昭和四八年九月一七日から右病院へ入院し、同月二七日午前零時三五分死亡したこと、は前記認定のとおりである。しかして、弁論の全趣旨から右李貴仙の右入院期間一〇日間右原告において入院雑費を支払つたことが認められるところ、右入院雑費は一日当り金三〇〇円と認めるのが相当である。よつて、右入院雑費の合計は金三〇〇〇円となる。

(2) 右李貴仙の葬儀費 金二三万円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二号証の一ないし四、および弁論の全趣旨によれば、右李貴仙の夫である右原告が右李貴仙の葬儀を営み、その費用金二三万円を支出したことが認められる。しかして、右葬儀費金二三万円は本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

(3) 右李貴仙の仏壇、仏具新調費 金一二万円

弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第一三号証の一、二および弁論の全趣旨によれば、右原告は、右李貴仙の死亡により仏壇、仏具を新調購入したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係に立つ右新調購入費用は金一二万円と認めるのが相当である。

(4) 代替従業員雇用費

(イ) 右李貴仙が前記金崎商店の営業全般、特に資金繰りに関する業務を担当していたこと、は前記認定のとおりである。

(ロ) 右原告は、右李貴仙の本件死亡に伴い代替従業員を雇用した旨主張する。しかしながら、その雇用した従業員が右李貴仙の担当していた如何なる営業面を填補したのか、換言すれば、右雇用せざるを得なかつた必然性の点につき具体的な主張・立証がない。それ故、右原告の主張する右代替従業員の雇用と本件事故との間の相当因果関係の存在を肯認するに足りる資料がない。よつて、右原告の右代替従業員雇用費の本訴請求部分は理由がない。

(5) 右原告固有の慰藉料 金二〇〇万円

(イ) 右李貴仙が前記金崎商店経営の八〇パーセントを担当していたことは、前記認定のとおりであり、右原告が右李貴仙の夫であることは前記のとおり当事者間に争いがない。

(ロ) 右認定に基づけば、右原告の本件慰藉料は金二〇〇万円が相当である。

(6) よつて、右原告が被告等に請求し得る本件損害賠償額は、前記相続分金四〇万四二三九円と右(1)、(ロ)、(2)、(3)、(5)の合計金二三五万三〇〇〇円の総計金二七五万七二三九円となる。

(四)  その余の原告等分

(1) 右原告等固有の慰藉料 各金五〇万円

右原告等が前記李貴仙の子等であること、は前記のとおり当事者間に争いがない。しからば、原告等の本件慰藉料は各金五〇万円が相当である。

(2) よつて、右原告等が被告等に請求し得る各本件損害賠償額は、前記相続分各金一〇万七七九七円と右(1)の慰藉料各金五〇万円の合計額金六〇万七七九七円となる。

二  過失相殺の抗弁について

1  原告金玉順が本件事故当時本件原告車を運転し、前記李貴仙が右車両の助手席に同乗していたこと、右李貴仙は原告金泳祚の妻であり、原告金泳祚を除くその余の原告等(右原告金玉順も含む。)の母であること、は前記のとおり当事者間に争いがない。しかして、成立に争いのない甲第五号証、同乙第四号証、同乙第一〇号証によれば、原告金誠一、同金敏子、同金胎順は原告金玉順の弟妹に当り、原告金栄子は原告金玉順の姉に当ること、原告金玉順は本件事故当時既に婚姻して原告金泳祚等夫婦とは別居して独立の世帯を持つていたし、右金玉順と姉妹弟の関係に立つ右原告等も全て右金玉順と居を共にしていなかつたこと、右原告金玉順と右李貴仙は本件事故当時偶々行動を共にしているに過ぎなかつたこと、が認められる。

2  前記乙第二号証、同乙第六ないし第九号証、成立に争いのない乙第三ないし第五号証を総合すると、本件原告車を運転していた原告金玉順は、本件交差点へ進入するに際し、右交差点の自車進行方向左右の見通しは建物のため全く困難であるから、右交差点手前で最徐行または一時停車して左右道路への安全を確認して進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠り、漫然それまでの進行速度時速約二〇キロメートルのまま右交差点へ進入し本件事故を惹起したことが認められ、右認定に反する原告金玉順本人尋問の結果は前掲各証拠と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

3  右認定事実に基づけば、本件事故発生には、原告金玉順の過失も寄与しているというべく、右過失は本件損害額の算定に当り斟酌するのが相当である。しかして、その過失割合は、全体に対し三五パーセントと認めるのが相当である。

4  しかして、右1で認定した右原告金玉順と前記李貴仙、右原告金玉順とその余の原告等との間の身分および生活関係を考慮するならば、右原告金玉順の右過失は、右原告金玉順自身は勿論、右原告金玉順の母右李貴仙および右原告金玉順の父原告金泳祚の各本件損害額を算定するに当り、所謂「被害者側の過失」として斟酌するのが相当である。しかしながら、原告金誠一、同金敏子、同金栄子、同金胎順は、いずれも右「被害者側の過失」における「被害者」の範囲外にあると認め、右原告等の各本件損害額の算定に当つては右原告金玉順の右過失を斟酌しないのが相当である。

5  そこで、右原告金玉順の前記過失割合をもつて、原告等の本件損害額を所謂過失相殺すると、原告等において被告等に対し請求し得る本件損害額は次のとおりとなる。

(一)  原告金泳祚分 金一七九万二二〇五円

(二)  原告金玉順分 金三九万五〇六八円

(三)  その余の原告等分 金五七万〇〇六八円

(ただし、相続分金一〇万七七九七円を右過失割合で過失相殺。)

三  結論

1  叙上の認定説示を総合すると、被告等は、原告等に対し、各自次の金員を支払う責任を負つているというべきである。

(一)  原告金泳祚に対する本件損害金一七九万二二〇五円

(二)  原告金玉順に対する本件損害金三九万五〇六八円

(三)  その余の原告等に対する本件損害金五七万〇〇六八円。

(四)  右各金員に対する本件事故後で前記李貴仙が死亡した日の翌日であることが当事者間に争いのない昭和四八年九月二八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による各遅延損害金。

2  以上の次第で、原告等の本訴各請求は、右認定の限度で理由があるから、これ等をその範囲内で認容し、その余は理由がないからこれ等を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を、各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

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